『田園の詩』NO.6 「ライフスタイル様々」(1993.8.3)


 田舎に移住したいという人が、私のところに時折相談にやってきます。陶芸家、
竹細工職人、木工品製作者など、年齢や経験年数の長短こそあれ、手に職を
持っている人が多いようです。

 その人たちのほとんどは、田舎で自給自足の生活をしたいと話します。職人と
しての自分の仕事のペースが少々落ちても、野菜を作ったり、炭を焼いたり、お米
まで作りたいといいます。実際、このような暮らしぶりの移住者が目につくようにな
りました。

 そんな中で、昨年、都会からやって来た仏師(仏像彫刻師)さんは、こんな自給
自足型の田舎暮らしを否定します。

     
      仏師さんの仕事場    クスの木の良い香りが漂っています。(08.2.29写)

 「自分は、田舎でのんびり仕事して暮らすなどという隠遁者みたいな生活はした
くない。都会と比べて田舎の方が、周りの雑音も気にせず仕事に集中でき、時間
も多くとれそうだ。ここのほうが、自分の仕事にとってより良い環境だから、田舎へ
の移住を決めた」と明快に言い切り、息子さんと一緒に、一日中ノミを持って仏像
を作っています。

 広い土地があっても、仕事場を建て増すばかりで、野菜は作りません。

 「自分の仕事はノミで木を削ること。余分なことはしないので、その分多く稼げる。
そのお金で農家の人からお米を買い、近所のおじいさんの焼いた炭を買い、おばあ
さんの作った野菜を買う。お金は、どんどん回すこと。それで皆が喜ぶ。」と、この
仏師さんのいうこと、することは気持ちのいいことばかりです。

 たびたび私は訪ねて行くのですが、しかし、この仏師さんが野菜を買っているところ
を見たことはありません。「これ使いよ。これ食べよ。」と、玄関には近所の人たちが
持って来た野菜がいっぱいです。なんと、お酒も来るそうです。

 様々なライフスタイルがあるでしょう。どんな暮らしぶりも自由ですが、私は、この
仏師さんから田舎で住むひとつの生き方を教えられる思いです。  (住職・筆工)

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